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研究概要 : マルチエージェントシミュレーションと参加型技術
高度化・複雑化が進む社会に対して,起こりうる社会現象を予見し,適切な社会システムをデザインする事が困難になっています.複雑化した社会を把握・理解するための手段として,コンピュータを利用した社会シミュレーションが注目されています.現在は,社会を粗粒度で表現するマクロ的なアプローチではなく,局所的な現象の分析を可能にするために細粒度で社会を表現する,ミクロ的なアプローチが求められています.本研究グループの目的は,社会を様々な側面から観察し,計算モデルを設計し,そして社会の再現に不足のない規模と粒度でシミュレーションを行うための技術と方法論を生み出す事にあります.
自律的な意思決定・行動主体である人間の集合から構成される社会の再現に適したアプローチとして,ミクロシミュレーションの一形態である,マルチエージェントシミュレーションが注目されており,様々な分野を対象に研究が活発化しています.マルチエージェントシミュレーションから,実社会において有用な知見を得るには,エージェントの行動を規定するエージェントモデル,相互作用を規定するインタラクションモデルのデザインが重要な課題となります.これらの課題に対して,本グループでは,参加型シミュレーションに基づいたアプローチにより,研究を展開しています. 参加型シミュレーションとは,仮想空間上のエージェントと,実空間上の人間が仮想空間を共有して行われるシミュレーションです.人間の被験者は,仮想空間内に再現された環境下でエージェントや他の被験者とインタラクションしながら,内在的な視点から問題を観察し,問題解決の過程を体験する事ができます.人間がシミュレーションに参加する事で,様々な局面において,実際に人間が採った多様な振る舞いを観察でき,現実的なエージェントモデルの構築に活用出来ます.個々の人間が実際にどのように振る舞うかを直接観察し,モデル化へと繋げている点が本グループの研究の特色であり,オリジナリティとなっています. また, 現実的に有用な知見を得られる社会シミュレーションを実現し,次世代の社会システムの構築に寄与するため,参加型技術,モデリング技術,およびシミュレーション技術とプラットフォームの開発を行っています. 研究内容大規模交通シミュレーション
図:ドライバのモデル獲得プロセス
現実的な交通流を生み出すための鍵となるのは,人間の運転者の運転操作を再現するための計算モデルの構築技術,そして得られたモデルに基づき各々で異なる運転を再現可能な車両エージェントを大規模に機能させるシミュレーションプラットフォームです. 運転行動モデルの獲得 個々の運転者の性質を反映した運転の再現を目的として,ドライビングシミュレーションから各被験者の性質を反映した運転行動モデルの獲得を試みました[Hattori 10].モデルを学習するため,まず初めに,参加型のドライビングシミュレーションを実施します.シミュレーション後の被験者のインタビューから,領域知識となる操作ルールを抽出し,また,ログデータ中にある被験者の観測事象の述語論理に基づく記述の定義を行います.モデル学習には,仮説推論を用いたモデル獲得方法[Murakami 05]を適用しました.モデル学習では,モデル獲得の対象となる被験者がどの操作ルールを備えているかが不明なため, その被験者がある操作ルールを実行したと一旦仮説を立てて推論し,矛盾なく被験者の運転操作を説明できれば立てた仮説を真とする仮説推論を用いて操作モデルが得られます. 大規模交通シミュレータ
図:交通シミュレーション実行例
シミュレーションの様子については,こちらもご覧下さい.動画もご覧いただけます. 参加型モデリング
参加型モデリングは,対象領域のステイクホルダー(利害関係者)が,モデルの構築プロセスに能動的に参加し,モデル設計者と共に,ロールプレイングゲーム(RPG)やマルチエージェントシミュレーションを繰り返す事で,文献などから構築した初期のエージェントモデルの洗練化を図るモデル化手法です.
例えば,行政が施策を決定する際において,政府などがトップダウンに問題解決法を決定していては,地域住民などのステイクホルダーの意見は反映されず, 現実的な解決策を得ることはできません.それと同様に,専門家が収集したデータや資料だけに基づいてエージェントをモデル化するだけでは, ステイクホルダーの視点が十分に反映されたモデルが構築されているとは言えません.モデリングの対象とするステイクホルダーをモデリングプロセスに加えることで,より現実に近いエージェントモデルを獲得することが可能になります. これまでに,タイの農村経済をドメインに選び,参加型モデリングの研究を行っています. 分類学習を用いた参加型モデリング手法の拡張
図:機械学習を用いた参加型モデリング
本手法により,分類学習を用いたモデル構築の課題であった,データ収集のコスト,データのノイズ, 分類条件の妥当性という3つの問題を解決できます.本手法は,IRRIとCIRADのタイ東北部における農業経済を扱った共同プロジェクトに適用し,成果を得ています. 参加型アプローチによる交渉モデルの獲得 社会システムの理解のためのマルチエージェントシミュレーションで必要となる, より現実を反映したモデルの獲得を目指し,その方法論を確立しています.従来の参加型アプローチによるモデリング手法が,交渉などの連続したプロセスを扱いにくいという欠点を克服するために,参加型シミュレーションを用いたモデリングを行っています.本プロセスは,ステイクホルダー,領域の専門家,システム開発者により構成され,以下の4ステップで行います.
避難者モデルの獲得
図:参加型シミュレーションの被験者
この実験を題材にして,三次元仮想空間プラットフォーム FreeWalkとシナリオ記述言語Qを用いて,参加型シミュレーションを行いました.ここで我々は,(1)語彙の定義,(2)シナリオの記述,(3)インタラクションパターンの抽出, (4)実・仮想空間における実験の統合というプロセスにより,参加型シミュレーション上のエージェントモデルを精練するアプローチを提案しました.ここでは,シミュレーションのログに対して,仮説推論に基づく学習を適用することで,エージェントの行動ルールを獲得するアルゴリズムを提案していまs[Murakami 05].避難者と誘導者という二種類の役割が存在する避難実験のシミュレーションにおいて, 過去に行われた統制実験とほぼ等しい結果を得ることが出来ました[Murakami 03]. 拡張実験
拡張実験は,実空間での被験者実験を仮想空間でのマルチエージェントシミュレーションで拡張するという,全く新しい実験方法です[Ishida 07].拡張実験では, 実空間での被験者の振る舞いを仮想空間に投影し,人間とエージェントによるシミュレーションを行ないます.拡張実験を行うためには,仮想空間で行っているシミュレーションと,実空間の被験者実験をシームレスに結合する環境が必要です.
携帯電話を用いた京都駅避難誘導実験 本実験は,「デジタル・シティ・プロジェクト」の中で行われ,仮想の都市空間の中で,仮想的な避難訓練を行っています.本実験では,地下鉄京都駅の改札から階段,ホームに至る区域の天井に28台の全方位センサを設置しました.人間の動きをカメラで把握し,仮想の地下鉄構内に反映し, 誘導者はコンピューター画面の仮想空間を見ながら携帯電話を通じて指示を出すことで誘導を行いました. 本実験では,帽子にランプを付けた学生ら17人に参加してもらいました.地下鉄京都駅構内で火災が発生したケースを想定し,メールを介した指示による誘導を行う実験をしました.
図:京都駅避難誘導実験
GPS携帯電話を用いた個別避難誘導実験
図:管制モニタの様子
本実験では,京都市内で地震が発生したものとして避難訓練を行いました.被験者はGPS携帯電話で位置を計測し, システムサーバへと送信します.サーバでは,各々の被験者に割り当てられたエージェントが現在地と最寄りの避難場所の位置を示した避難地図を作成します.被験者は,送信されてくる避難地図に従って避難します. 避難中には,火災などの二次被害の情報も提供されます.被験者の携帯電話から定期的に送信される位置情報に基づいてセンターからの地図情報が更新され, 二次被害の情報が刻々表示されます. 管制センターのモニタースクリーンには,実世界の全被験者の情報と共に,仮想的な避難者である避難エージェントの様子も表示されます. 誘導者はこのスクリーンを用いて,近くに位置する複数の避難者をグルーピングし誘導指示を行います. このように大規模な避難誘導を模擬体験してもらうとともに,それを支える技術基盤の検証を行いました. プラットフォーム
マルチエージェントシミュレーションの実現ため,エージェントの制御技術,シミュレーション基盤を開発し,実際に,それらを利用した社会シミュレーションを実施しています.
シナリオ記述言語Q Qはエージェントを制御するスクリプト言語で,インタラクションを設計するものです[Ishida 02].エージェントの内部メカニズムの記述を目的としたものではなく, エージェント(あるいはエージェント群)に対し,人間(あるいはエージェント)が外部からどのように作用するかを記述することを目的としたものです(下図a, b). 言語仕様に従ったシナリオ記述をエージェント群に与えることによって,エージェント群とのインタラクションを設計します.
図:(a)従来はエージェントの内部を記述,(b) Qは外部とのインタラクションを記述
これまでに,後述のFreeWalkやCaribbean,CORMASといったエージェント環境と組合せ,様々なシミュレーションを行ってきました.例えば,3次元仮想都市FreeWalk/Qでは, 通常のPCで数百のエージェントを制御することができます.また,FreeWalk/Qは,地下鉄京都駅における避難誘導実験,消防研究所と共同でのホテルニュージャパン火災の再現, スタンフォード大学と共同での仮想社会心理学実験などの先導的実証研究に用いられています. また,計算機の専門家でないことが想定される応用領域の専門家でも記述しやすいようなツールの開発も行っています. Excelを用いて表形式でインタラクションパターンを表現しQ言語を生成するツールや,Visioを用いて書かれた状態遷移記述をQシナリオに変換するツールを開発しました. より詳しいQに関する情報は,Qのプロジェクトサイトを御覧下さい. 大規模マルチエージェントプラットフォームCaribbean/Q
図:Caribbean/Qによる広域避難シミュレーション
より詳しいCaribbean/Qに関する情報は,メガナビゲーションのプロジェクトサイトを御覧下さい. 三次元仮想都市システムFreeWalk/Q FreeWalk は社会的インタラクションをシミュレートできる仮想都市空間であり,社会心理学の知見にもとづく群集行動の再現が可能です[Nakanishi 04]. 多数のエージェントと被験者によるインタラクションを3次元仮想空間内に視覚化でき,音声の通信・合成・認識,都市・人体の3Dモデルの表示,動力学計算による歩行アニメーション,PCクラスタ上での分散処理など,大規模なインタラクションのシミュレーションに必要な機能を備えています.
図:地下鉄駅構内の群衆を再現
より詳しいFreeWalkに関する情報は,FreeWalkのプロジェクトサイトを御覧下さい. メンバー主な研究成果
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